シャーペンの芯が電極に!「塩化銅の電気分解」で化学変化を追跡しよう(マイクロスケール実験でエコに!)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
皆さん、理科の実験と聞くと、何を思い浮かべますか? ビーカーやフラスコが並び、なんだか難しそうな薬品をたくさん使う…そんなイメージかもしれません。でも実は、もっと手軽に、そして環境にも優しく科学の核心に迫る方法があるんです。
今回は、中学校の理科でもおなじみの「塩化銅の電気分解」を、驚くほど小さな実験器具( #マイクロプレート )を使って行う「 #マイクロスケール実験 」でご紹介します。この実験、ただ電気を流すだけじゃないんです。青く美しい水溶液が「透明」に変わり、見えなかったはずの「金属」が現れる…。まるで魔法のような化学変化を、目の前で観察できますよ!
小さな実験室「マイクロスケール」の魅力
今回行った「 #マイクロスケール実験 」は、私が以前勤めていた学校でも取り入れていた方法です。 使う薬品や水の量を最小限に抑えるため、実験後に出る「廃液(はいえき)」を劇的に減らすことができます。環境に配慮しながら、準備や片付けも簡単になり、安全に実験が楽しめるのが最大の魅力です。
小さなスケールだからこそ、変化が素早く現れることもあり、観察にもぴったりなんですよ。マイクロスケール実験についてもっと知りたい方は、こちらの論文をぜひチェックしてみてください。実験の詳細や、塩化銅水溶液の作り方についても丁寧にまとめられています。
マイクロスケール実験については、詳しくこちらの論文で詳しくまとめられています
こちらが実際の実験の様子です。まずは動画でご覧ください!
実験の準備と「なるほど!」な工夫
実験に使う「塩化銅水溶液」は、青い色をした液体です。 理科の実験では、薬品の濃度(こさ)を正確に計算して準備します。
【10%-塩化銅(Ⅱ)二水和物水溶液の調製法】
塩化銅(Ⅱ)二水和物 CuCl2・2H2O 式量=170.48
10%水溶液を調製する場合,水和水を除いて10gになる量をはかりとる。 CuCl2=63.5+35×2=133.5 2H2O=2×18=36 であるから,
よって,13gの塩化銅(Ⅱ)二水和物結晶に水を加えて100gにする。
少し専門的な計算が出てきましたが、これは水溶液に「水和水(結晶に含まれる水)」がある場合に必要な計算ですね。ただ、嬉しいことに、今回の実験の塩化銅の濃度は、低めでも可能です(3パーセントでも大丈夫です)。論文ではひとつのセル(実験の穴)に4cm3とありますが、比較のために1cm3も用意しました。
ちなみに、仮に学校で4人班×10班(40人クラス)で実験するとしても、1班分(4cm3)×10=40cm3。4クラス全体でもたった160cm3(牛乳パックの1/6程度)で済んでしまいます。本当にエコですよね!
(今回は比較実験もしたかったので、多めに作っています)
実験方法と安全の工夫
実験方法はシンプルです。
- セルに塩化銅(Ⅱ)二水和物水溶液を入れる。
- 炭素棒電極を挿入し,5V直流電圧を印加する。
- 陽極(+極),陰極(-極)での変化を観察する。
- 陽極・陰極から発生したものについて調べる。
ここで面白い工夫があります。電極に使う「炭素棒」ですが、なんと「太い2mmの芯のシャーペンの芯」で代用できてしまうんです!
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シャーペンの芯も、鉛筆の芯と同じ「炭素」でできており、電気をよく通すんですね。
ただし、ここで重要なのが「ショート防止」です。+極と-極が水溶液の中でくっついてしまうと、電気が水溶液ではなく電極同士を直接流れてしまい(ショート)、正しく電気分解ができません。非常に危険です。そこで、発泡スチロールを小さくカットして電極を固定する台座を作りました。
発泡スチロールがなくても、電極を「八の字」に開いて、絶対にくっつけないように強く注意することも大切です。

八の字がポイント
回路はこんな風に、1つの電源装置から分岐させて、2つの実験を同時に行えるようにしました。電圧は5Vです。
いざ実験!青い水溶液が大変身
電極をとりつけて、電気分解をスタート!
じっと溶液を観察していると…さっそく変化が現れました。陰極(-極)の方に、何か茶色っぽい物質がまとわりついていくのがわかります。そして陽極(+極)の方からは、細かな泡がプツプツと発生し始めました。
さらに10分間くらい電圧をかけ続けると…あれほど鮮やかだった水溶液の青色が、すっかり消えて透明になりました!(※時間を短縮したい場合は9Vくらいで行うこともできますが、ショートには一層の注意が必要です!)
謎解き編:消えた「青」と現れた「泡」の正体
さて、この不思議な変化の正体を突き止めましょう。まず、水溶液の「青色」の正体は、「銅イオン(Cu2+)」という粒子です。塩化銅(CuCl2)が水に溶けると、銅イオン(Cu2+)と塩化物イオン(Cl–)に分かれます。
【陰極(-極)での変化】
陰極(-極)には、プラスの電気を持つ「銅イオン(Cu2+)」が引き寄せられます。そして、電源から送られてきた電子(e–)を受け取り、電気的に中性な「銅(Cu)」の原子になります。これが、電極に付着した茶色い物質の正体です!水溶液から青色の「銅イオン」がどんどん「銅」に変わっていったため、水溶液の色が消えて透明になった、というわけです。
【陽極(+極)での変化】
陽極(+極)には、マイナスの電気を持つ「塩化物イオン(Cl–)」が引き寄せられます。そして、電子(e–)を奪われて「塩素(Cl2)」という気体(ガス)になります。あのプツプツとした泡の正体は、プールの消毒の匂いでおなじみの「塩素」だったのです!
塩素には「脱色作用(だっしょくさよう)」といって、色を消す(漂白する)働きがあります。生徒たちには、この塩素の確認を自由に試してもらいました。ろ紙に水性インク(赤)をたらして、それを陽極の近くに置いて脱色反応を確かめる班、ろ紙を溶液に浸してみる班、隣のセルに水とインクを入れて泡を誘導する班など、様々です。
水性のインクの他に、緑色の蛍光ペンを使うと、色の変化がとても見やすいこともわかりました!これも面白い発見です。
広がる科学のつながり
実験はこれで終わりではありません。陰極(-極)に付着した「銅」は、ろ紙の上に取り出してスプーンなどでこすると、ピカピカの金属光沢を放つのも確認できます。さらに、ある班はガスバーナーを使って、水溶液や付着した銅を燃やし、「炎色反応(えんしょくはんのう)」を確かめていました。
銅は炎に入れると青緑色の炎を上げます。これは花火の色付けにも使われている原理です。自分たちで取り出した物質が、確かに「銅」であることを、色々な方法で確かめていく…まさに科学の醍醐味(だいごみ)ですね。「電気分解」という言葉だけを覚えるのではなく、実際に目の前で物質が変わり、色が消え、新しい物質が生まれる瞬間を体験することで、化学の面白さがグッと深まります。いろいろな発見のある、本当に面白い実験です。マイクロスケール実験については、こちらの本も買ってみました。
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